先進的英語教育

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公立小学校における CLIL(科目内容と言語を統合した学習)
公開授業のご紹介

授業のご紹介
2018/12/20

長岡市立越路西小学校5年生の外国語公開授業を見学してきました。当日は長岡市教育委員会関係者や、市外の先生も含め60数名が視察に来られた大規模なものでした。この授業は英語と社会科の内容を統合したCLILのノウハウを活用しており、CLIL実践・研究の権威である宇都宮大学准教授山野有紀先生が指導にあたっておられます。

*長岡市立越路西小学校は新潟県長岡市南西部に位置する。平成16年4月に近隣2校が統合して総木造の校舎で開校した。桑原校長によると、同校は平成27年度より2年間「長岡市研究推進校」の指定を受け、“学習意欲を高め主体的に学習に取り組む児童の育成”を目標に掲げアクティブ・ラーニングを用いた国語科学習に焦点を当てた研究を進めてきた。CLIL授業については、日本CLIL教育学会小学校中学校部会部長である宇都宮大学准教授山野有紀先生の指導の下、平成30年度より実施している。


小学5年の生徒が幾つかのグループに分かれ、社会科で学んだ世界各国の観光地の位置や、特色をもとに作った海外ツアープランを、グループ毎に英語で発表する授業が行われました。担当された先生は社会科の丸山彩織先生です。英語教材We can-1のUnit-6 “I want to go to Italy”にある表現をうまく取り入れ、全てのグループが英語で立派に発表を行いました。発表の途中に” Are you OK?”と内容が理解されているか確認する姿も見られました。ホワイトボードには Wow,Great,Nice,What?などのcommunication wordsが記載されていたこともあり、聞いていた生徒は活発に英語で質問やコメントをしていました。オーストラリアのエアーズロック、ペルーのマチュピチュなど、魅力的な訪問先を各グループが選んでいたので、聞いていた生徒の関心も自然に高まった様子でした。本来は中学2年で習う I want to go to ~という文法表現も楽しみながら生徒が身に付けており、CLILの効果が垣間見られました。同校がCLILを導入した目的は、もっと子どもたちが英語を話したいと思う方法があるのでは?との問題意識のもと、他の教科で学んだことを英語学習に活かせ、子どもたちが興味関心を高め易いツールとして選んだ経緯がありました。
同校の基本方針である“自分の思いをもち、それを伝えよう”“友達の言葉に耳を傾けその思いを受け止めよう”ということを授業で実践できていることにもCLILが役立っている印象でした。
授業後は宇都宮大学准教授・山野有紀先生による、“学びを繋げる小学校外国語教育におけるCLIL-すべての児童の学びのためにと-“という講演も行われました。

*宇都宮大学は1949年宇都宮市に設立された国立大学。教員と学生の距離が近く、ゼミなど少人数で密度の濃い授業ができる特長がある。教育学部は、教員養成教育に定評がある。(平成25・26年 教員就職率東日本第一位、平成27年度は教員正規採用率東日本第一位等)

山野有紀先生・講演内容骨子
CLILを小学校の外国語教育で導入する大きなメリットは、理科など他教科で学んだことを外国語学習に活用し、学びを繋げながら思考力を養うことである。これは新学習指導要領に示された、教科横断的カリキュラムマネジメントによる学びの実現に貢献できる可能性がある。スキルベールのみの育成を目指す外国語教育ではなく、子どもたちの興味関心に寄り添い、それぞれの個性を生かした知的運用能力を持つ21世紀型学習者の育成を促す効果が期待される。これを裏づける一つの理論として、ハーバード大学ハワード・ガードナー教授による多重知能理論がある。これは全ての人が潜在的に8つの知能(言語語学知能のみならず、視覚・空間的知能や音楽・リズム知能など)を備えているとする。例えば英単語を文字で覚えるのが苦手な生徒でも、絵や写真あるいは音楽など、自分の得意な能力を通じて学びを深める様子がCLIL授業では見られる。これは日本の小学校で約7%存在するとされる、通常学習に障害のある児童生徒にも同様の効果が見込まれる。つまりCLILはInclusive Education(注)を実現するツールでもある。越路西小学校の公開授業では、各々の生徒が自分の頭で考え、相手に伝わり易い表現を工夫し、活き活きと外国語でやり取りをする姿が見られた。これは、文部科学省が新しい学習指導要領で目標とする思考力・判断力・表現力を高める方針と見事に合致している。外国語学習だけの授業では意味を理解しないまま、単語・フレーズのプラクティスをする例が散見される。一方CLILでは社会や理科など意味のあるコンテンツを活用し、子どもの興味関心を高め、思考を深める結果に繋がっている。これにより、インプットしたことをアウトプットするための知識のインテイク(内在化)が行われ、外国語習得上の効果も見込まれるのである。

    

(注)Inclusive Education…障害のある者と障害のない者が共に学ぶ仕組み。