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横浜市の私立女子中高一貫校高等部におけるCLIL授業のご紹介

授業のご紹介
2023/11/07
横浜女学院中学校高等学校

*横浜女学院中学校高等学校
1947年に設立された同校は、日本プロテスタント発祥の聖地・横浜山手にてキリスト教と聖書に基づく、愛と誠の人間教育を行っている。
 同校の国際教養クラスでは、ESD(注1)とCLIL(注2)を組み合わせた最新の学習メソッドを用いた英語教育を実践しており、CLILについては上智大学教授・池田先生に指導を受け、他校に先駆けて実施している。また、ニュージーランドとアメリカには複数の提携校・姉妹校があり、充実した海外留学制度も整備されている。

(注1)ESD… Education for Sustainable Development持続可能な開発のための教育。一般には、貧困や人権など“持続可能ではない将来を招く”課題を自らの問題として捉え、身近なところから取り組み解決に向かっていく学習・活動を指す。
(注2)CLIL… Content and Language Integrated Learning 内容言語統合学習と訳されている。内容と言語を相乗効果で習得でき、深い思考や異文化理解も促進できる学習法。


①高校2年国際教養クラスのCLIL授業は英語科主任 鯉渕健太郎先生と、アメリカ人講師 ブレナ・タモール先生によるall Englishティームティーチングで行われました。
内容はアメリカ軍が太平洋戦争末期に広島と長崎に原子爆弾を投下したことはjustify(正当化)されるかどうかということを、日米の歴史教科書や資料を比較しながら考察するという高度なものです。翌月にこの学年の生徒は京都と広島への修学旅行を控えており、今回の授業はその事前学習という位置づけもでき、授業カリキュラムと学校イベントが上手く組み合わされている印象です。
まずは本題に入る前のwarm upとして、タモール先生を京都と広島の観光地にご案内するという現実的な設定で、鯉渕先生が “What are you planning to do in Kyoto and Hiroshima ?”と生徒に問い掛けました。複数の生徒が推薦したい観光地を英語で説明しておりましたので、修学旅行の準備としても役立ちそうでした。
次はいよいよ本題です。“Was it right to use the atomic bombs ?”という発問がホワイトボードに表示された後、英国BBCが制作した原子爆弾投下に関する短いドキュメンタリーを英語で視聴しました。そして、戦後70年以上たった今でも原爆投下に対してアメリカ人と日本人では歴史認識が異なることを示すデータを紹介し、日米の歴史教科書の比較へと授業が展開します。
こうしたauthentic(本物)素材を多用するのが同校CLIL授業の特徴です。
授業では日米双方の歴史記述の違いをグループで分析し、理解したことを発表し合うタスクが英語での意見交換も含めて行われました。時折生徒の質問に対し、日本人の鯉渕先生とアメリカ人のタモール先生との間でやり取りをしながら答える時間もあり、異なる視点の意見を生で生徒に体験させる意図も感じられました。
次の授業ではタモール先生がアメリカで習った歴史の授業を生徒のみなさんに再現し、歴史をただの事実の暗記ではなく、解釈まで含めて批判的に考察することの大切さを学んだようです。このように本物の情報を基に多様な視点から課題を分析し英語で発表を行う授業は、将来生徒たちが社会人になってから必要な国際教養だと確信しました。

②高校1年国際教養クラスのCLIL授業は英語科主任 鯉渕健太郎先生とアメリカ人講師 ヴィクトリア・アンチェッタ先生によるall English ティームティーチングで行われました。
内容はジェンダーに関する多様な見方があることを、トランスジェンダーの選手が女子競技に参加することや女子大に進学することの是非などを題材に知識を深め 、生徒一人一人の意見をまとめるものです。
この授業ではアメリカ人女性であるアンチェッタ先生から、トランスジェンダーの人をいろいろな場所で受け入れることはfair(公正)であるというアメリカ人ならではの視点で、authenticな意見が出ると、生徒からは半ば驚きの声があがっていました。
こうしたやり取りをきっかけに、日本ではまだまだ理解度が低いLGBTQの方々の権利について、多様な視点があることに生徒が気づき、思考を深めていく様子が窺えました。
また鯉渕先生が作成されたワークシートでは、架空の2人の生徒のディスカッションに対して、それぞれの主張と合うように空欄に英語で発言を記入するタスクが行われました。
具体的には、トランスジェンダー女性が女子スポーツに参加することや女子大に入学することに関して、賛成している人と反対している人それぞれの立場で意見を考えて書くといったものです。このタスクはディベートのトレーニングとしても有効という印象で、生徒はジェンダー理解というテーマをきっかけに、世界には多様な立場の人がいることを理解しそれが異文化理解にも繋がる可能性があるという内容の濃い授業でした。
END