神奈川県横浜市の*神奈川県立柏陽髙等学校の英語授業「論理・表現Ⅱ」のご紹介
*神奈川県立柏陽高等学校
昭和42年の設立以来自然科学教育を重視しており、平成14年にはスーパーサイエンスハイスクール研究開発校となった。生徒の学力レベルが極めて高いことなどを勘案され、平成30年には神奈川県教育委員会から「学力向上進学重点校」の指定を受けた。英語教育をはじめとしたグローバル教育にも重点を置き、米国メモリアル高校の受け入れや海外大学などと現地での交流研修を行い、実際の生活の中で英語を使用する活動を継続的に行っている。また1、2年を対象とした即興型英語ディベート大会である Fun Fun Debate Competition を行うなど着実に英語運用力が高まるイベントも取り入れている。
英語科有光裕美先生による論理・表現Ⅱは、今回特別に、2クラス合同約80名の生徒が大教室で一緒に参加する授業です。他のクラスから鷲野先生と山岸先生も来られて指導にあたります。今回特筆すべきは、有光先生の教育実践の生きた証である元教え子、現役大学生本田さんがオンライン外部講師として参加され、大教室のリアル授業とオンラインとを組み合わせたハイブリッド型授業だったことです。この日のテーマは有光先生の「机上の学びに留めない」という信念のもと、教科書にとり上げられていた、homeless peopleに焦点を当てた“What did / can / will you do for homeless people?”を考えることから授業が始まりました。授業の冒頭では、Queensland大学での*TESOLや日本語教師の資格取得で学ばれた手法を使われ、オーセンティック教材をスライドに映して生徒の興味関心を惹きつけながら、有光先生が英語で、“I always need your reaction.”と、生徒が無意識のうちに自然に声を上げる雰囲気作りを行いました。英語コミュニケーションにおいては誰かの話に何か言葉を返すことが大事であることを説かれたのです。
その上で本田さんが高校生だった頃から関心を持っていた、homeless peopleをサポートする英国発のプロジェクトである、The Big Issueについて、この日本法人を訪問したことも含めプレゼンを行いました。The Big Issueという雑誌をhomeless peopleが220円で購入し、450円で道行く人に売ることにより、homeless peopleの手元にお金が残る仕組みです。Homeless peopleと言っても様々な立場の人がおり、“There are invisible homeless people.”といった複雑な事情があることも本田さんは説明されていました。そして有光先生は、本田さんの5分半のプレゼンを前半後半に分け、英語でのプレゼンのため生徒の内容把握度をチェックする際も、ケンブリッジ大学の*CELTAで学ばれた*CCQsを上手く使われ、また生徒が無意識のうちに問いに反応するトレーニングができるteaching procedureとなっていました。本田さんのプレゼンを聞いた生徒たちは3人ずつのグループに分かれ、homeless peopleに対し自分たちができることを話し合いました。“We can provide some food and clothes to homeless people.”など具体的な提案がいくつも出て、生徒が自分事としてhomeless peopleの問題解決に向けて取り組んでいる様子が窺えました。また本田さんのプレゼン内容にあったhomeless peopleの定義などについて有光先生が生徒に問い掛けたり、The Big Issueは雑誌が売れるほどhomeless peopleが財政的に豊かになり、このプロジェクトから離れてしまうというジレンマがあることを生徒に考えさせるなど、理解や定着を図る工夫が見られました。生徒の思考が更に深まったと思われたのは、本田さんのプレゼンを聞いた後で、有光先生が生徒に “Do you have any change or difference?“と問い掛けたことです。生徒は色々な気づきを得た(変化があった)ことを口々に発表し、中には“The Big Issue company should have an another goal.”と、当初は与えて助けるだけの発想であったものが、抜本改革する必要性の提案など示唆に富む発言もありました。 最後に生徒全員が講師の本田さんにお礼の手紙を英語で書いて授業が終了となりました。どの生徒も英文で手紙を書く際の基本的ルールを理解しており、本田さんのお陰で homeless peopleについて別の視点で考えたり、勇気をもらい新たな目標が持て、自分も成長させてもらえたことに対する感謝の気持ちを英語で表現できているのは、日頃のライティングトレーニングの成果が表れていると感じました。現実に起きているhomeless peopleの問題を英語でのプレゼンから自分事として捉え、問題解決方法を英語で考えるという探究学習の要素が入っている上に、講師へお礼の手紙を書くというマナーも身につけられる素晴らしい英語授業でした。
*TESOL Teaching English to Speakers of Other Languagesの略。英語を母語としない生徒に英語を教える教授法。
*CELTA Certificate in Teaching English to Speakers of Other Languages の略。英国のケンブリッジ大学英語検定機構が認定している、英語を母語としない人に英語を教えるための英語教授法資格。
*CCQs Concept Checking Questions の略。言葉や文法の意味を絵や写真、先生の質問を通して生徒に聞きながら授業を進める生徒中心のスタイル。
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