明治大学付属明治高等学校・明治中学校のCLIL授業のご紹介
【明治大学付属明治高等学校・明治中学校について】
1912年に旧制明治中学校として開校した110有余年の歴史を持つ明治大学の直系付属校。
2008年に神田猿楽町から調布に移転し、同時に男子校から共学校となった。「質実剛健」、「独立自治」が校訓であり、高大連携のメリットを活かし将来を見据えた実践教育を行っている。
高等学校1・2年次は殆ど全ての科目を必修とし、幅広い観点から基礎学力の土台を養成している。3年次では文系・理系の2コースに分け、進路に合った専門性の高いカリキュラムを展開し、更に選択科目を設けて明治大学入学後にも活きる広範囲な基礎学力を固めている。グローバル化が加速している社会で生きる力を養うため、夏期にボドウェル校(カナダ)での2~3週間のアカデミック・プレパレーション・プログラムや、高3冬期にヨーク大学(カナダ)での3カ月研修など、豊富な国際連携のプログラムが準備されている。中3・高1でスピーチコンテスト、高2・高3でプレゼンテーションコンテストが実施され、入賞者には短期留学のための奨学金が贈られる。また、図書館には洋書8000冊が並び、英語多読が活発に行われている。

英語科原島章暢先生による、高校1年2学期のCLIL英語コミュニケーション授業・Let’s Remake Old Tales!のご紹介です。今回の授業は2学期最終回で、生徒たちによる昔話のリメイク紙芝居の発表と、その中から優秀作品を決めるクラス投票が行われました。生徒たちは、綿密に組み立てられた年間授業計画のもと、物語の理解や分析から創作・創造(Creation)に至るまでの学び、そして同時に幅広い英語表現の習得へ向けて、今学期の学習を継続してきました。その集大成となる、非常に意義深い授業でした。
授業の冒頭、今学期で学んできた内容を軽く振り返りました。学期の最初には、ディズニー映画Frozen(2013,邦題『アナと雪の女王』)を生徒が視聴し、そこに出てくる英語表現の学習を行いました。映画の実際のシーンや、テーマ曲Let It Goなどを用いて、シャドーイング、ディクテーションも徹底して行い、個別の対面シャドーイングテストも実施しました。と同時に、ストーリー・キャラクター・普遍的メッセージについてジグソー型学習で分析させています。

その上で、「純粋なプリンセス」「悪の女王」「プリンセスが王子と結ばれるハッピーエンド」のようなステレオタイプ (stereotype)が色濃く表れていたかつてのディズニー映画とFrozenとの比較分析を行います。ここで生徒たちは、Frozenが今までのプリンセスストーリーと比べ、むしろ既存のステレオタイプを利用し、それを逆転させることで物語のクライマックスを作っていることに気づきます。ここで、ステレオタイプや無意識のバイアス(unconscious bias)といった概念について、ジグソーリーディングやバイアスクイズ、原島先生による作りこまれたワークシート等を活用して学んでいきます。ステレオタイプという言葉を知らなかった生徒や、普段気がつかない、また自分自身がはまり込んでいたステレオタイプにここで気づく生徒も多いようです。
次にFrozenには原作となった昔話があることを伝え、アンデルセンのThe Snow Queen(1844,邦題『雪の女王』)の読み聞かせを行います。その後、ディズニーのクリエーターたちは映画のメッセージを視聴者に効果的に伝えるために、原作のキャラクターやストーリーをどう変えたかについて、ストーリー創作時によく用いられる「SCAMPER法」を使って分析させます。
単元の後半では、昔話のリメイク作業に入ります。選べる昔話は、赤ずきん、桃太郎、シンデレラ、白雪姫の4つ。その際、完全に自由にリメイクさせるのではなく、あえて原島先生がいくつかの条件を出しているのが、非常に有効な足場架け(scaffolding)といえます。0から自由に創作させた場合、何からはじめていいかわからない生徒や、結末やテーマがよく分からない作品も出てくる恐れがあります。先生の出した条件は、以下3つです。
・Universal Messagesを入れ、これを伝えるために物語を展開させる
・Un-stereotypical Story/Charactersを用いて、物語を聞く生徒の考え方や感情をゆさぶる
・Originalityを出す。0から完全に新しいストーリーを作り出すのではなく、他の作品や王道の展開をヒントに、登場人物などの新しい組み合わせを試す
こうした綿密な授業を経て、無事全員の生徒がグループで紙芝居作品を完成させ、英語プレゼンの録画を終了しました。
今回の授業では、あらかじめ選定された3グループによるプレゼン動画を見た後、最優秀作品を決めるためのクラス投票が行われました。どの作品も創造性にあふれ、感動すら覚えました。

優秀作品となったうちの1つは、Peach Girl and the Demonというタイトルでした。「桃太郎」が元になっていますが、鬼が少女を助け、鬼と人間が結ばれて桃太郎が生まれるなど、物語によくある数々のステレオタイプや思い込みを軽々と覆す、見事な作品でした。

各グループの発表で、これまでの授業で学んだ英語表現も随所に用いられていました。綿密な年間授業計画のもと、丁寧な授業を継続してきた結果、生徒は英語力も思考力も概念的理解も身につけてきたことが窺えました。
優秀作品に選ばれたグループの生徒たちに原島先生が “How do you feel now?”等と感想を聞くと、生徒は口々に、“I’m so happy now.”などと答え、楽しんでプレゼンを行えた様子が伝わりました。また、“I’d like to improve my story making from now on.”と発言して、この授業を通じて自分のできていることとできていないことに気づき、更なる学びに意欲的な生徒もいました。

原島先生が最後に伝えたメッセージも印象的でした。今学期の授業を振り返り、チームで紙芝居を作ったことについて、“Some people are good at painting. Some people are good at English, and some people are good at thinking of stories. Everybody is different. We should think about what we can do and help others to think about what they can do.”と、大学に進んだ後、就職した後、生きていくうえで常にテーマとなる“Working together”の必要性を説いていました。
最後に生徒たちの振り返りからいくつかコメントを抜粋します。
「こんな英語の授業は初めて受けた。4技能以外にも大切なことが学べ、明日からの人間関係に生かしていこうと思った」
「自分も固定概念を持っているということに初めて気づき、自分の中の『常識』にきちんと向き合おうと思った」
「新しい価値観を知れたり、ものの見方が変わったりと、英語以外の部分でも成長できたと思う。相手への伝え方を工夫して英語を使えたのもよかったと思う」
「グループワークやステレオタイプなど、今まで自分が聞き流していたり、とりあえずでやっていたことに向き合うことができた。自分の視野が狭いのだなぁと改めて感じることができ、これからの活動に活かしていこうと思う」
とはいえ、原島先生は今回の単元をこう振り返ります。
「授業後半、もう少し時間にゆとりがあれば、生徒たちはすべての力を出し切り発表の完成度をもっと高めてくれていたはず。次回に向けての大事な反省点です」(原島)
生徒目線を保ち、クラス全体のモティベーションを注視しながら、計算しつくされた誠実な授業で学習効果を高めていかれた努力の賜物だと感じました。
END